グローバル・エリート日記

時価総額世界トップ20に入る、グローバル事業会社のリージョナル・ヘッドクォーターに勤める外資系エグゼクティブ・サラリーマンの日記。シンガポール在住。グローバルキャリア、グローバルビジネス論、マーケティング・ブランディング・広告。

起業家として成功することと、大企業で成功することのどちらが楽か?

こんな記事を発見した。

kodamayutaro.hatenablog.com

おなじみのおざーんの学生向け講演内容をまとめたもの。

世の中の風潮として、どうしても二元論で語られがちな、「起業 vs. 大企業」問題。個人的には、どっちゃでも好きなほう取ればえーやんっていうのが結論なのですが、最近の趨勢としては「起業 (or スタートアップ)かっこいい」が主と見受けられるので、天邪鬼な私としては、ポジショントークも含めて幾つかこれに異を唱えてみたい。

1) メディア(特にSNS)にだまされるな

自分のタイムラインに流れてくるまばゆいばかりのニュースフィード。起業家インタビューなどのコンテンツ、「xx億円調達」、などといったニュースがあふれていますね。これは、起業家とかスタートアップならではの特権ですよね。しかしこれに惑わされてはいけない。大企業戦士にだって、負けないくらい語れるストーリーはいっぱいありますよ。ただ、コンプライアンス上しゃべれないことが多いだけ。冷静に内容見てみたら、あれ意外と自分がやってる仕事の方が全然スケール大きいし社会的意義あるんじゃ?と思えることがいっぱいあるはず。

2) 起業家も意外と大企業に対するコンプレックスあり

少なくないケースで、起業した人も最初は大企業で研鑽を積んだという人が多いのですが、意外や意外、競争厳しい大企業で生きていく自信がなくなって半ばドロップアウトでの起業、という人も多いのですよ。私の知人でも、そういうケースは幾つかあって、なのに起業家サクセスストーリー、ではそこの部分は当然包み隠されているわけです。笑っちゃうよね。特に外銀・外コンあがりの起業家には結構いますよ、そういう人。

3) 大企業の役員になるほうが難しいような気がする

おざーんさんも記事で述べていますが。私は起業したことはないのでわかりませんが、特に私が身をおいているようなグローバルカンパニーのGlobal HQやRegional HQの競争はそれはそれは熾烈ですよ。世界中から、えりすぐりの頭脳が集まって、当然英語での競争ですからね。かたや、最近は起業のハードルもぐぐっと下がったし、数億円でEXITみたいなものが一つの起業の成功単位とするなら、グローバル・カンパニーで生き残っていくほうが、よっぽど難易度高いと思います。

4) ライフタイムバリューでのNPVを考慮せよ

報酬面でも、比べてみましょう。スティーブ・ジョブズや、孫さんの例外は置いておいて、今の日本のスタートアップ市場で10億円くらいの起業EXITが一つのベンチマークだとしたら、3-4年で稼げますよ、グローバルカンパニーのDirector以上なら (下記参照)

シンガポールに住む日本人のヒエラルキー 1: グローバル・エグゼクティブ・ボード - グローバル・エリート日記

しかも、やはりそういう大企業でExecutiveだった人は、引く手数多ですからね。色々な面白いエクセレントカンパニーに転職できます。しかもそれが雪だるま式に、ふくらんでいく。プロジェクトライフを一生にした場合、NPVは意外と大企業Executiveの方が高いかもしれません。やはり、世の中はブランド力で動いている部分は大きいのです。起業した人って、意外とキャリアの流動性ないんじゃないかな。1回成功できても、次も起業するしかないですもんねぇ。逆に、大企業Executiveやってた人なら、そのままスライド転職も出来るし、起業も出来るしね。

5) 起業家に幻想を抱きすぎるのは危険 - 起業家は意外と自由ではない

なぜか、大企業で活躍・出世するイコール、政治がうまい人、できる人、みたいな、そしてそれが悪であるというステレオタイプを持つ人が多いような気がするのですが。まずもって、人が組織を作る以上、大小限らず、政治は必要でしょう。また、これは特に男性にありがちなのですが、「自由に、自分で決められる」ことが起業家の醍醐味と勘違いしている人も多いと思うのですが、起業家だって、株主を迎え入れた瞬間、もう片手手錠でつながれたようなものです。自分で単独で意思決定なんて簡単にできるわけありません。よっぽど、大企業のExecutiveの方が、レイヤー少ない中で意思決定できるかもしれません。

 

と、まあつらつら書きましたが。冒頭で書いたとおり、どっちゃでもいいのです。個人が好きなほうを選べば。大企業で活躍する・偉くなることも十分に難易度が高く素晴らしい点は多いはずなので、卑下する必要ないのですよ、サラリーマン諸君。

個人的には、日本の大企業ではなく、私が働いているようなグローバル・エクセレント・カンパニーのGHQやRHQで、役員クラスになる日本人がもっと出てきて欲しいと思う。今、世界でこの地位に就けている日本人って、本当に数えるくらいしかいないのではないか。(日本支社の社長ではないよ。日本支社って、所詮GHQとかRHQから見たら、本当に権力ないから。外資系日本支社の社長なんてごまんと日本にいると思うけど。) 日本でちまちま起業してEXIT、はい人生終了、みたいなものより、規模も、やりがいも、報酬も、よっぽど大きいと思いますよ。